■あらすじ■


兄は、無口だった

でも、気分がいいときは調子よくしゃべった

その時に兄をからかっては、よくけんかをしたものだ

しかし、思い出す兄の姿は、そんな元気な姿ではない



兄のことを考えるとき、心がぼんやりと身体に溶け出す

そして私は、静かな時間の中に身を投じるのだ

白い病室に、骨ばった兄が死を受け入れてベッドに座っている

腰に枕を当てて上半身を起こして

ぼんやりと、窓の外の青い空を眺めている



午後の日射しが、優しく世界を照らしていて

涼しい風が、カーテンをすり抜けて、兄のベッドをなでる

それは、あまりにも静かで、あまりにも透明な世界だった



そして私は知るのだ

この静かで優しい時間の中でしか、兄は存在することができないのだと